049
私は、あの人に話しかけなかった。かつて一度も。
でも、本当にそんなことが大切なんだろうか。私が、あの人の姿を見た。それだけで対話はもう成立しているんじゃないだろうか。それはスクリーンやテレビ画面やパソコンモニタを媒介してだけれど。ある目が、視覚像と音声を捉えた。それによって、わたしの内分泌の組成が一瞬だけでも変わった。体温が微かにあがって、脈拍が少し早くなったかもしれない。足の裏に汗をかいたかもしれない。それだけで交流は、対話はもう成立しているんじゃないだろうか。
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私は、あの人に話しかけなかった。かつて一度も。
でも、本当にそんなことが大切なんだろうか。私が、あの人の姿を見た。それだけで対話はもう成立しているんじゃないだろうか。それはスクリーンやテレビ画面やパソコンモニタを媒介してだけれど。ある目が、視覚像と音声を捉えた。それによって、わたしの内分泌の組成が一瞬だけでも変わった。体温が微かにあがって、脈拍が少し早くなったかもしれない。足の裏に汗をかいたかもしれない。それだけで交流は、対話はもう成立しているんじゃないだろうか。
4月14日 目のしばたくようなあかるみで
「おはよう こうしてるとさ 進んでるよね そうかな でも気づかない どこに 明日かな おやすみ」
隣の家。老人が死んだようだ。窓際の布団の上でジュワッと溶けていたらしい。遺体を処理する業者がせかせかしている。もう跡形しか残っていない老人をひと目見たいとの情愛を示す人間はいなかったんだろう。 老人は実はカラダの溶ける宇宙人だったのではないか?と息子が言う。宇宙人だからってカラダが溶けるとは限らないのだと答えると、息子はつまらなそうに炒飯を食べた。炒飯には刻まれた段ボールが入っていてパラパラしている。明日はガムテープのサンドイッチです、と妻からの予告あり。布ですか、紙ですかと愛犬マルチーズが質問するも会見は終了した。
03.25.667便にて
寝落ちしてしまった隣の乗客と光を発しつづける映画のスクリーン