思い出すみたいに
とりとめもなく
君の話を
聴いていたかった
朝が来ないのでは
意味がないのに
ずいぶん遠かった
手狭な店のなかで
あかるく挨拶する
幸せそうな人から
パンを買った
あの日のこと
幾つもの層があり
お皿の上に点々と
広がった
こぼれ落ちた滓を
勿体ないとばかり
拾いあげていた
だいぶ遠くなって
それで静かなのか
窓から差し込んだ
わずかなひかりに
目のしばたく
三日月の夜
それは椅子に坐っていて、かろうじて呼吸があった。
ぴったりと閉められたカーテンを、湿った外気が嘲笑うように透過し、
それの胸に流れ込んでいた。
室外機を打つ水の音だけを頼りに、それは息も絶え絶えだった。
そうすることが、仕事だった。
誰に言われたわけでもなく、それは知っていたのだ。
そうしなければいけないことを、それは知っていたのだ。
やがてある朝がきて、音は消えた。
頼るべきものを失って、それは椅子に坐ったまま息も絶え絶えだった。
何も変わっていなかったのだ。かろうじて呼吸だけが、はじめからあったのだ。
この石が、私の心臓なんです。
信じられないかもしれないんですけど。
けど、この石が私の心臓で、それが今動いて私が生かされている、っていうことなんです。
最初は、私にも信じられませんでした。
だっておかしいじゃないですか、おかしい。
この小石が鼓動もしていないのに、私の心臓だなんて。
昨日、私は家の前で佇んでいました。
頭を抱えて、雨が降りそうな空に押しつぶされそうだったので。
でも、どうしても無理で、その場に座ったんです。それが運の尽きでした。
小石が言ったんです、こうしてずっと佇んでいろよ、って。
そのとき、私にはわかりました。こうして座っているのが、私にできる限界なんだって。それを、この心臓が教えてくれているんだって。
もちろんそんなこと、心臓は言いません。でも現に、動いて、そう言っているんです。ずっとこうして脈打っていることが、今までのようにできるならばどれほどいいだろうかって。そう思えてきてしまったんです。
それからずっと、私は家の前で佇んでいます。
ふるえながら座っています。頭のてっぺんから足のつま先まで。雨が降りそうな空はもうずっと続いていて、頭を抱えながら。
小石はもう冷たくなって、まるで小石のようです。
いつの間に小石になってしまったのか、私の心臓は。そう思ってももう後の祭りで、一度私はそう思ってしまった、そのことが全てなのです。頭のてっぺんから、足のつま先までふるえながら、私は鼓動を抱えています。それがいくら遠くなろうと、それは私の心臓です。もう一度言いましょう、それは私の小石です。この小石が、私の小石なんです。
店にあかりが灯る。
ずいぶんと寒い道路はくぼんでいて、
向こうに届きそうもない距離が、僕たちを隔てる。
今日は晴れ、物音ひとつきこえない。