それは椅子に坐っていて、かろうじて呼吸があった。
ぴったりと閉められたカーテンを、湿った外気が嘲笑うように透過し、
それの胸に流れ込んでいた。
室外機を打つ水の音だけを頼りに、それは息も絶え絶えだった。
そうすることが、仕事だった。
誰に言われたわけでもなく、それは知っていたのだ。
そうしなければいけないことを、それは知っていたのだ。
やがてある朝がきて、音は消えた。
頼るべきものを失って、それは椅子に坐ったまま息も絶え絶えだった。
何も変わっていなかったのだ。かろうじて呼吸だけが、はじめからあったのだ。